文字飾りが派手になっていくメカニズム
私は普段仕事でシステムの運用手順書などを作成する機会が多い。
手順書は複数人がメンテナンスするので皆さんそれぞれ重要だと思ったところを赤字にしてみたり、太字にしてみたり、下線を引いてみたり、はたまた吹き出しをつけてみたりと、割と好き勝手に編集する。
本当に重要な箇所を際立てるためにフォントを飾り付けて工夫するというのは別に間違っているとは思わないが、問題は「重要」がきちんと定義されていないことだ。
たとえば、
- これはよく忘れがちだから赤字で書いておこう。
- この手順は省略できるので、無駄を省くため目立つように赤字で書いておこう。
- この作業をする理由は非常に重要なことだから、赤字で書いておこう。
このようにして赤字は増え続け、しまいに赤色だけでは目立たないから、本当にクリティカルなところは更に目立つように太字にしたり下線を引いたりする。
赤字・太字・下線は文章を読みやすくしない
確かに赤で書けば目立つ。パッと目に飛び込んでくる。
しかし決して、読みやすくなったわけではない。
これ、読みやすいだろうか。
これは?
バカみたいだと思うかもしれないけど、私の職場では実際にこれに近いことが起きている。
重要→目立たせたい→赤色という条件反射でドキュメントを編集するとこうなる。
まわりがシンプルだから飾ると対比で目立つのであって、「赤=目立つ」ではない。
- 赤字にすると、目にうるさい。
- 太字にすると、漢字の判別に重要な細かい空間が潰れる。
- 下線を引くと木と本を見間違えたり、字形の判別の邪魔になる。
本来、赤字・太字・下線というのは読みにくいのだ。
赤字・太字・下線を使わないほうが断然読みやすい。
適切に使用する分には、重要な箇所が際立つので文章全体として読みやすさは増す。
この読みやすさとは、赤字そのものの読みやすさではなく、赤字だけを拾い読みすれば重要箇所の概要をつかめるという読みやすさである。
つまり、重要でないところの読み飛ばしやすさが増すということだ。
重要をしっかり定義する
個人のブログだったら自分が重要だと思った箇所や、より強く訴えたい箇所にコントラストをつけてやればよい。たとえば先ほどから例にあげている、赤字・太字・下線だ。
しかし複数人でメンテナンスする業務マニュアルでこれをやってしまうと、赤字・太字・下線のオンパレードになる。なぜなら、書いてあることはすべて重要だからだ。重要じゃないことなんて、そもそも無い。だからたとえば手順を飛ばしてしまったり、間違えるたびに「ここ重要」となる。赤字の割合が黒字を超えると、そのうち赤字しか読まなくなる。
じゃあどうすれば良いかというと、「重要」を個人の感性に任せずに、しっかりケースを定義すればいい。
たとえば以下のような箇所を「重要」と定義する。
- 間違えるとリカバリーが困難な箇所
- 間違えると人に迷惑をかける箇所
- 間違えると費用が発生する箇所
- 間違えたことに気づきにくい箇所
- トラブル時に急いで探す必要のある電話番号
また、以下のような箇所は「赤字にしない」と定義する。
- その作業を実施する経緯や理由
- 間違えてもシステムでエラーになり、やり直せる箇所
- 楽をするための裏ワザやノウハウ
これらが重要ではないとは言わないけれど、そんなところまで赤字にしてしまうと、更に重要な箇所はもっと目立たせようとして最終的に冒頭で紹介したようなことになる。
文字飾りはより重要な箇所に譲り、基本は単調でモノクロな読み疲れしにくいドキュメント作成を心掛けたい。